メルマガ【2017年10月号】目次
1 民法改正(その5)法務3-解除
改正される民法のうち、今回は「解除」についてご紹介します。
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【改正のポイント】
解除についての改正のポイントは、
(1) 債務者の帰責事由の不要化
(2) 催告解除要件の明文化
(3) 無催告解除要件の明文化・整理
(4) 原状回復の内容の明文化
(5) 解除権消滅要件の整理
です。
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【(1) 債務者の帰責事由の不要化】
現行法では債務不履行に基づく解除には債務者の帰責事由が必要(現行民法543条ただし書き、判例)とされていました。
しかし、解除の趣旨は帰責事由ある債務者の責任を追及する点にはなく、契約目的を達成できなくなった債権者を契約の拘束力から解放する点にあります。
そこで、改正民法は543条ただし書きを削除し、解除のために債務者の帰責事由を不要としました。
もっとも債権者に帰責事由がある場合にまで解除を認める必要はありません。そのため改正民法543条は債権者に帰責事由がある場合の解除権を制限しています。
【(2) 催告解除要件の明文化】
改正民法541条の条文は、次の通りです。
「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」
改正民法541条ただし書きは、催告による相当「期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除できないとしました。
これは不履行が軽微の場合にまで解除は認めない、とする判例法理を明文化したものです。
なお、契約をした目的を達することができる場合であっても、債務の不履行が軽微であるとは言えないときは催告解除をすることができることになります。
【(3) 無催告解除要件の明文化・整理】
改正民法542条1項の条文は、次の通りです。
「次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。」
改正民法542条1項は、
1号:全部履行不能
2号:明確な履行拒絶
3号:一部履行不能や明確な一部の履行拒絶により契約目的達成ができない
4号:定期行為の不履行
5号:債務を履行せず催告をしても契約目的達成の見込みがないことが明らか
という場合
に無催告解除ができることを明文化しました。
また同2項は
1号:一部履行不能
2号:明確な一部の履行拒絶
の場合に無催告の一部解除ができることを明文化しました。なお、一部解除が可能なのは一つの契約のうちの一部分のみを解消することが可能な程度に当該部分が区分されている場合に限られることを前提としています。
【(4) 原状回復の内容の明文化】
改正民法545条3項の条文は、次の通りです。
「第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。」
同項は金銭以外の物の返還に際して果実をも返還すべきこと(通説)を明文化しました。
【(5) 解除権消滅要件の整理】
改正民法548条の条文は、次の通りです。
「解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。」
解除権者による故意過失に基づく目的物損傷等の場合の解除権消滅要件を整理し直しました。また、ただし書きで、解除権者が解除権を有することを知らなかった場合には解除権は消滅しないとしました。
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【コメント】
「(3) 無催告解除要件の明文化・整理」(改正民法542条)のうち、1項の2号、3号及び2項の2号には、明文により無催告解除が認められたため、注意を要します。もっとも、明確な拒絶意思の表示(1項2号、2項2号)は単に1回履行拒絶しただけでは足りず、書面で強固に履行拒絶する、又は履行拒絶の意思を繰り返し表示するなど履行不能と同レベルの状況が発生する必要があるとされます。
また、現時点では5号は具体的にどのような場合にこれに該当するかが明らかではありません(信頼関係破壊の法理が適用される賃貸借などが想定されています)。判例などにより解釈が明らかになるまでの間は、催告解除を原則としつつ、今後の学説判例に注意する必要があります。